アマヤドリ 稽古場ブログ

東京を拠点にするアマヤドリの劇団員・出演者によるブログです!

カテゴリ:出演者紹介『月の剥がれる』2016年版

アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介! 
月の剥がれる_出演者紹介_笠井里美
笠井 里美 東京都出身。
高校卒業後、劇団俳優座研究所に入所。
3年間在籍し、卒業。
2006年、ひょっとこ乱舞『水』に参加。以降、劇団員となる。
外部作品への出演には、東京デスロック、五反田団、ホチキス、ナカゴーなどがある。
アマヤドリの群舞の振付経験を活かし、最近では外部で振付をする事も。
犬猫をこよなく愛し、近年人よりも動物に話しかけている時間の方が長くなっている。

─『月の剥がれる』という作品についての笠井さんの考えをお聞かせください。
 

 初演のときはまだ客観的に作品を観る余裕がなかったのですが、三年経って距離をとって、このあいだあらためて映像を観てみたら、「壮大」な作品だなって感じました。今まで自分がかかわった演劇作品のなかでも。

 わりと広田さんの作品は劇のなかで人が死ぬっていうことが少なくて、たとえば『ロクな死にかた』だったら死んだ後、主人公が死んでからの話なのですが、『月の剥がれる』では劇中たくさんの人が死ぬ。自分が初演でやった役も、命を捧げてもいいと覚悟を決めている人なわけで、でも今の日本人の感覚からすると、ふだん命を危機にさらすことなんてないし、諸外国の紛争も遠い話だし、だから私たちの日常生活のスケールからすると、相当温度差のある作品になっている。初演のときの自分も、普通の精神状態ではない状態で演っていたように思います。

 出演者が多いから「壮大」という意味ではなくて……最初に台本を読んだときにすごいなって思ったのが、戦争の問題とありふれた「怒り」という感情を結びつけて、そこからさらに国家の基盤の憲法の話につなげているところ。もうその時点で扱っているテーマが壮大だなって感じてました。向かっている問題意識が尋常じゃない。

 そして、そういう深刻なテーマが中心にありながらも、いろんな要素を持っているいろんな登場人物が出てくる。それこそ、その人のバックグラウンドだけで一つ作品が書けちゃいそうな人物も複数出てくるし、人間関係のなかの葛藤もあるのだけれど、テーマ自体を体現するような人物はいない。いろんな視点のドラマを複雑に組み合わせていつの間にかテーマが浮かびあがるように書かれていて、そういう戯曲上の問題の捉え方の面でもまた「壮大」だな、って感じます。
 
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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介!  
遠藤 杜洋 千葉県出身 1995年生まれ
大学入学時より演劇活動を始める。
アマヤドリにはこれが3回目の出演となる。
現在学業と演劇の両立のため悪戦苦闘中。
主な出演作は、アマヤドリ「すばらしい日だ金がいる」「ロクな死にかた」


─『月の剥がれる』という作品についての遠藤さんの考えをお聞かせください。

 僕がこの作品に初めて接したのは去年の『すばらしい日だ金がいる』の稽古中配布されたテキストとしてなんですが、それを通して読んで、その後映像も観て……かつて、アマヤドリはこんなとんでもない作品を演っていたのか、ということを思いました。正直。

 もっと言うと、僕は『月の剥がれる』を劇作家・広田淳一が救国のために書いたのかもしれないなとも思いました。戯曲として、現代の、同時代の日本人への広田さんなりの意見提出という側面があると思う。少なくとも、そこで提起されている問題は見過ごせないほどに大きい。もちろん劇中で行われていることを実際に実行しろ、とアジテーションしている作品ではないんですが、それにしても──何かを変えないといけないんじゃないか?という漠然とした切迫感は、映像で観ただけでも僕には伝わってきて、観終わった後にすごい割り切れないものが残ったんです。「じゃあ自分は何をするのか、何ができるのか」という問いがずっともやもやと残った。

 『月の剥がれる』の物語では、「人を殺してはいけない」という理念を突き詰めた結果、逆に多くの人が死に、「怒り」という感情を共同体として否定するというところまでいく。「戦争はよくない」「人を殺してはいけない」という僕らがあたりまえに思っている道徳の地盤が、場合によってはそこまでいくということを実験的に示している。「平和」という言葉を口にする以上、分かってなければいけないこと、分かっていたはずのことを突き付けられたという感じがして、僕は、昨今になって憲法改正の問題が浮上するより四年も前にこれが書かれていたということに、驚きました。しかもきちんと演劇作品として成立させた上でその問題を突き付けているというのが、この作品の魅力だと思います。


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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介!  

池田 優香 北海道出身 1996年生まれ

7歳から、劇団ひまわり札幌俳優養成所に所属。大学進学を機に、上京。
現在、フリー。
麦のもの(特にパン!)が大好きです。

主な出演作は、札幌座「デイヴィッド・コパフィールド」、WATER33-39「友達」、
ままごと×パルテノン多摩「あたらしい憲法のはなし」


─『月の剥がれる』という作品についての池田さんの考えをお聞かせください。

 アマヤドリの作品は今まで『すばらしい日だ金がいる』と『ロクな死にかた』の二つを観ていて、根底に流れているものは重たいけれど、それをポップな感じで舞台にのせているというイメージでした。でも『月の剥がれる』は、台本を読むと、ストレートな台詞をがんがん畳み掛けたり、一方で詩みたいな台詞もあったりで、作風として「アマヤドリにはこういう作品もあるんだ」っていう意外さがまずありました。

 でも、今感じているこの作品の難しさっていうのは、作風が意外だったからというよりは、そもそもこの作品が扱っている題材をあたしがどこまで考えられるのか……どこまで理解できるのか……という難しさです。たとえば今のSEALDsみたいな感じで、もし「サンゲ」みたいな団体が出て来たとしても、あたしは絶対に参加しないだろうなって思います。最近、すごく考えてみたんですけれど……広田さんがこの作品を書くきっかけになったチベット問題だったら、もう日常生活でかなり自由を犯されていて、政治的な脅威が身に迫っているからこそ、チベットの人たちが焼身自殺してまで政治を変えたいっていうのは、納得できる気がするんです。でもサンゲのメンバーの人たちは、それなりの生活をしていて、それなりに幸せに生きていけたわけじゃないですか。そういう人たちが、政治を変えるために命を捨てるほどの行動を起こしてしまうのは、ちょっと動機が見えづらいなって感じます。たとえば但馬っていう登場人物であれば、のんべんだらりとした人生をつづけるんじゃなくて、何か劇的な行動を起こしたいっていう動機はたしかにあったんだろうけれど、その行動って、べつに政治じゃなくてもいいじゃん?って思うんです。

 サンゲのメンバーたちがとくに生活に困っていたわけでもないのに、なんで命を捨てるほどの政治的行為に走っていったのか……みたいなことは、最近よく考えています。この作品が扱っているテーマをどこまであたしが受け止められるだろうか、ということを。

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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介!  

石井 葉月 東京都出身 1992年5月28日生まれ
小学生で、当時憧れていた「葉っぱ隊」に女性ではなれないという
人生初の挫折を乗り越え演劇を始める。
2015年3月「悪い冗談」以降、アマヤドリの劇団員となる。
主な出演作は、モラトリアムパンツ「ヒットナンバー」岡安伸二演出「BANRYU」等。

 
─『月の剥がれる』という作品についての葉月さんの考えをお聞かせください。 

 考えてもすぐに答えは出せないし、出たとしても、それが正解かどうかは分からない。そういう作品だと思います。作品の側から自分が問われている感じがします。

 平和のために命を捨てるっていう人達が出てくる物語ですけど、そんなこと、自分だったら絶対に出来ないだろうって思うんですね。また、未来の学校で平和のために怒りを捨てた、ひとつ人間味を失ってしまった人達というのも出てきますけど、もし怒りを削がないと平和が得られないんだとして、そこまで平和って大切なものなのか?とも思う。怒りこそ、必要な感情で、面白いものとすら思ってしまいます。

 この作品と向き合い始めて、自分の見過ごしてしまっていた事の多さに気付かされます。普段、本気になって平和についてなんて考えてなかったんですよね。今は立ち止まらされて考えざるを得ない感覚です。

 過去に自分は、ひめゆりを題材にしたお芝居をやった事があって、「戦争は無くさなくちゃいけない、戦争は起こしちゃいけない」っていう気持は、自分の中に強く芽生えたし、そういう発言も今までしてきました。でも、作品のように自分の命と引き替えにしてまで世界を平和にしたいかって問われると、分からない。反戦~!なんて言うのは簡単なんですけどね。実際自分の世界平和に対する想いの薄さに、ひきました。勿論死ぬ事だけが、正解ではありませんが、世界と向き合う本気度が追いつかないですね。

 稽古を進めていくにつれて、今後考えるべき事や課題は、増えていくと思うのですが、まずは、作品の中にそういう「問い掛け」があるという事を大切にしたいです。自分はまだ答えは出せません。人によって出る答えも違うのでしょうが、実際観る人にとっても、色んな問い掛けがあり考えるきっかけになる作品だと思います。

 その一方で──広田さんがよく言うことなんですが──そういうガチな作品であるだけに、演じ方として、重さも出しつつ、あえて明るく表現するということも必要だと思ってます。『ロクな死にかた』の時に、あたし死んでしまう役だったんですが、だからこそおまえが一番明るくやれって広田さんからは言われていて。悲しいと感じるのはお客さんであって、自分から悲しく見せるものではないって。『月の剥がれる』のDVDを最初観た時も、どんだけ暗い作品だろって身構えたんですけど、予想以上に明るかったのが印象的でした。しかも、湿っぽくないから、役の人間としての厚みみたいのが滲み出してて、あ、人間てこーゆうものか!って。真実味みたいなものを感じました。

 今回の再演でも、この作品のテーマの重さにやられて、ただ暗かった重かったというだけのものでなく、初演で感じたものを大切にしてお届けしたいです。約30人のダンスも壮大なので、段々と形になっていくのが凄く楽しみです。

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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介! 

月の剥がれる_出演者紹介_大塚由祈子
大塚 由祈子 千葉県出身 1989年生まれ
ICU高校ダンス部・お茶の水女子大学舞踊教育学専攻で、
ダンス漬けの学生時代を過ごしたのち、演劇の道へ。
ビビビ!という出会いを求めて、フットワーク軽く活動すべく現在フリー。
主な出演作は、はらぺこペンギン!「月がとってもきれいです」、
舞台芸術集団地下空港「赤い竜と土の旅人」など。

 ー『月の剥がれる』という作品についての大塚さんの考えをお聞かせください。

 プレ稽古初日に、広田さんがこの作品に込めた想いというのを語ってくださって、それを聞いてから初めて台本を読んだんですが……とてもタイムリーな作品だなと感じています。たとえば今、また戦争することになるんじゃないか、そういう時代になるんじゃないかって空気が流れてますよね。そういった問題について以前友人と飲みながら話してたとき、ある男の子が「実際戦争が起こったら俺は行くよ」「戦争を経験してみたい」と言ってたんです。それが私の中ではとても衝撃的で。戦争なんてみんな嫌だと思ってるはずって信じてたから、そうじゃない人も実際にいるんだということを目の当たりにして、ちょっとカルチャーショックで。そのとき、人それぞれ多様な価値観があるんだって強く実感したんですが、この『月の剥がれる』という作品に触れて、そのことを改めて思い出しました。

 もう二十代も後半になってくると、これから自分はどう生きていこうか、何が自分にとっての幸せなんだろうか、活き活きとした人生を送るにはどうすればいいんだろうか、とか色々考えるようになると思うんですよ。この作品に出てくる但馬という人物もこんな感じのことを口にするんですが……流れに身をまかせて、平坦で安定した生活をずーっと続けて長生きするというのも一つの幸福の形かもしれない、けれどそれで本当に自分は幸せなのかどうか。もしかしたら、人は「死」と向き合ったとき、活き活きと強烈に輝けるのかもしれない。それこそ、戦場で命を懸けるとか、何かのために命を落とすとか。「死」という運命に飛び込んでいくその鮮烈さっていうのは、のんびり80歳まで長生きしましたという人には絶対味わえないものだと思うから。

 私自身、役者という職業を選んでいるからには、どちらかといえば80年長生きしてゆったり過ごすというよりも、あえて厳しい苦難の世界に飛び込んで、何者かになるのを目指している、というところもあると思うんです。だからサンゲの人たちにも、私たち役者なら共感できる部分はあるのかな、なんて思ってます。それから、お芝居の素敵さっていうのは──色々なお芝居はあるにせよ──、人物の大きな決断の瞬間、鮮烈な生が見える瞬間をお客さまとシェアできるところなんじゃないかと私は考えていて。そういう意味ではまさに『月の剥がれる』の物語には鮮烈な瞬間、人生が凝縮されているので、きっと素敵なモノをお届けできると思います。

 でも……どんなことがあってもやっぱり死んじゃダメだよ、死んだら元も子もないじゃん、って思いますけどね(笑)。

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