●『ロクな死にかた』稽古場レポート第一回

  突然ですが、ここでアマヤドリ春のロングラン&ツアー公演『ロクな死にかた』稽古場レポートの第一回をお送りいたします。レポートの第二回があるかどうかは、不明です。引き続きさらにレポートをご所望の方は頑張って「さっさとレポートを書け」という電波をわたしに向けてチャネリングで飛ばしてください。チャネリングが何かよく分からないというひとはぜひ、ググってください。無駄な知識が増えます。

 さて、幕開けまで一ヵ月を切ったこの日はすでに配役をめぐる試行錯誤も終えて、役者には大部分科白が入った状態での立ち稽古を行いました。それについて書く前に、まず『ロク死に』再演にあたって戯曲がどの程度リライトされるかについて触れておくと──「まあ、何らかのリライトは必ずある」と言っておきます。二月から三月上旬にかけて広田さんの手で戯曲に若干修正を加えてはみたのだけれどもしっくりこず、あらためて元に戻して稽古を行っている、というのが現在の状況で、最終形がどうなるかはまだ分かりません。そのあたりのことは近々WEBで公開される広田さんへのインタヴューでも語られる予定です。

 ということで、リライトはほぼないだろうというシーンを中心にこの日は立ち稽古をしたわけですが、今回の『ロク死に』の稽古をつぶさに眺めてみて、わたしは、アマヤドリの現場は──というか演出家・広田淳一の稽古のすすめ方においては──いわゆる「立ち稽古」でも稽古時間の使い方が独特だなという印象をいだいています。とにかく稽古中広田さんが考えている時間が長い。それに比例して役者の方が考えさせられ、科白以外のことを語らされる時間も長いです。たとえば或るパフォーマンスについてダメ出しする時でも、「今やったパフォーマンスの最中にあなたは何を見ていたのか? 何を思っていたのか? 何を感じていたのか?」を徹底的に掘り下げ役者に自分のアクトをその場で言語化させて、もっと踏み込んだ分析が必要な場合には、その役者の人生経験や感情生活や性格傾向についてまで質問がおよぶこともある。「あなたは恋人がこんな行動をしたら日常ではどんな風に対応していますか?」「こういう場合あなたにとってしっくりくる相手の言動はどんなものですか?」等々。しかも、そういうふうに稽古場において身体的な・人間的なやりとりによって見出されたものから、戯曲のテキスト自体の位置づけが変化したり解釈が影響受けたりということが少なからず起こります。つまり、戯曲のテキストが硬直し完結したものとして考えられてはいない。戯曲のテキストよりも稽古場における俳優の実在や身体性といったライヴ感の方が上位ないし等位にある。思うに、広田さんが戯曲のリライトにかんしていまだ決めかねているというのも、現行の『ロク死に』が初演時の座組とのライヴ感のなかで書かれたものだからということも一要因としてあるでしょう。ともあれ、その「ライヴ感」を見極めるために、普通の演劇の稽古だったら時間を掛けないようなところに稽古時間を割いているふうなところがあるわけです。この日も、石井双葉さんが広田さんの突っ込んだ質問を受け、中学生~高校生の頃のピュアな時代の想い出を語っていましたが(と書くとまるで今の双葉さんがピュアじゃないみたいですが)、それによってあたかもテキスト上の役と双葉さんの自己分析が双方から歩み寄ったように、役作りの密度が上がっていった感があります。それは言ってみれば演劇(芸術・文学)というより人間そのものを追求しているような感じで、わたしは傍らで見ているだけですが、驚くほど面白いです。

 もちろん広田さんから俳優へは演技についてのシンプルで厳しいダメ出しもあり、とくに空間に対する感覚にはかなり鋭敏なものが求められています。「うーん。あなたは舞台空間のどこに居たいんでしょう? まるで舞台上の空間が無いみたいにやっているんですよ。お客さんの方へ、前の方へ行きたい行きたいという感じでやっている。でも舞台上に空間はある。にもかかわらず、その空間をどう使うか、自分が空間をどう把握しているか、ということに対してあなたは鈍感すぎる。それだとあたかも客入れ挨拶みたいになってしまう。客入れ挨拶じゃないんですよ、人がいるんですよ、空間はあるんですよ、じゃあそれをどう使うのかっていうのをもっと考えなきゃならない。空間を活かすも殺すもあなた次第なのに、あなたは空間のことを何も感じないでやっているから、不自然な無視とか中途半端なことの連続になってしまっている。相手役とどういう距離でやりたいのか、どういう距離を取ってあげると相手役がやりやすいのか、やりづらいのか、何も考えていない、ただそこに居た、というだけになっている。とにかく自分で空間を持たないと。」──と、このようなダメ出しがなされたりする。この、舞台上の空間をしっかり感じるということについては、今後も充分俳優の方の腑に落ちるまでくり返し指摘されていくことになりそうです。

 以上、駆け足ながらさくさく稽古場レポートを書いてみました。最後に、写真を一枚──稽古中の写真は配役のネタバレになりますので、ミーティング時の写真を。ちなみに観劇前に戯曲を読むことに抵抗がない方は、公開されている『ロクな死にかた』を読んで事前に配役を予想してみるのも一興でしょう。また前述のとおり、今後上演前の宣伝コンテンツとして広田さんのロング・インタヴュー(の一部)がWEB公開予定ですのでそちらも楽しみにしていてください。

keiko160311