『ぬれぎぬ』出演者対談□□
劇団員同士、いろいろ語ってもらいましたっ!
今回は……【榊菜津美×松下仁×糸山和則】
※ちょっと長いですが、どうぞお楽しみください……っ
――この3人は呑み仲間的なイメージがあって今回この組み合わせにしたんです。
糸山:飲み仲間……?
榊:飲んだことありましたっけ?3人で?
糸山:ない。
榊:(笑)
糸山:あ、違う違う。あるある。王子の公演のときに、ほら!
松下:ああー。
榊:あったあった!
糸山:懐かしくないすか。
松下:懐かしいねぇ。
糸山:『フリル』のあとですね。
榊:佐藤佐吉演劇祭の授賞式の後に、3人で呑んだんですよー。公園で。
松下:めっちゃミニスカートだったよね。
榊:(笑)
―――『フリル』のときはなっちゃん(榊)は劇団員じゃなかったんですよね。劇団員になってもうすぐ1年たちますが、何か変化はありますか?
榊:どうだろう…。いやあ……。「なんのためにやってるのか」すごく考えるようになりましたね。劇団員になる前は、自分のためにやってたんですけど、劇団に入ってからは劇団の看板を背負ってるんだな、ということを意識するようになりましたね。
―――先輩ふたりから見て、劇団員になってからのなっちゃんに何か変化を感じますか?
松下:いや、変わらないなぁ。
榊:(笑)
糸山:旅公演(※1)のときからずっと劇団員みたいなもんだったからねぇ……。
松下:あ、でも、昨日の稽古で、えみちー(演出助手)がみんなに対して意見を言う声が小さくて、その時になっちゃんが横から「ちゃんと声張って!」って言ってて。ああ、ちゃんと先輩してんなぁーって思いましたね。
糸山:あー、言ってた言ってた。
榊:ええ、そんな怖い感じでしたか?
糸山:いや怖くはないよ。
榊:冗談っぽくなかったですか?
松下:いや、冗談にはなってなかった(笑)
糸山:(笑)
※1
2012年アマヤドリへと改名後、『幸せはいつも小さくて東京はそれよりも小さい』を全国4都市で上演。当時まだ劇団員ではない榊菜津美も出演している。
自分の芝居に飽きてる
松下:最近ね、『太陽とサヨナラ』の頃からね、自分の芝居に飽きてるの。ずーっと漠然と悩んでたんだけど、「飽きてんなぁ」って。それで行きついた答えとしては、単純なことなんだけど、「あ、俺は、守ってるんだなぁ」って。自分をね。「恥をかきたくない」みたいなことになってんだろうなぁってね、思ったんだよね。
糸山:へぇ。
松下:なんかねぇ……。曝け出したいよね。感情に溺れたい。
糸山:感情に溺れたい?
松下:うん、狂いたい。本番中は狂ってて、日常生活は半狂いで生活したい。
榊:あはは。
松下:人の目を気にして生きすぎてるんだよね、僕は。だから恥をかかないように、かっこ悪いところを見せないように、自分を守ってる。バカな自分、心の弱い自分、泣き虫な自分っていうのを守ってるんだろうなぁと。そうそう、多分、そうなんだよ。あのねぇ、本番とかね、緊張してしょうがないのね。(緊張することに対して)「俺はなにをやっとるんや」と。「自分でやりたくて芝居しとるんじゃないのか」と。「何を緊張しとるんや」と。「バカか」と。
榊:そんなに…(笑)
松下:それで、前回の競泳水着に出た時(※2)に、ちょっと吹っ切れたところがあって。だから守らないってことをね、意識してやっていけたらなぁ、と。
糸山:え、感情に溺れていたいっていうのはどういう…?
松下:うーん、演技に溺れてたいよね。
糸山:他のことは気にしない、ってことですか?
松下:うん。
榊:それって、切り替えがなくって疲れちゃわないんですか?
松下:わかんない。だってそれは……まぁ大概多分、狂えないよね。そう簡単には。
榊:あぁ…。
松下:だからそうなれたらな、って。それで、そういうことを最近考えていてね、(競泳水着の)本番中に広田さんにすごい長文のメールを送ったの。「悩んでるんだぁー」って。
糸山:へぇ。
松下:そしたら倍の長さの返事が返ってきて(笑)まあいろんなことが書いてあったんだけど、最終的には「そういう風に考えるお前を応援するぜ俺は」というようなことが書いてあってね。
糸山・榊:はぁー…。
※2 2014年2月、劇団競泳水着の公演『許して欲しいの』(俳優バージョン)に松下が出演。
本当に声が届く人は胸倉を掴むような感じがあって。
糸山:僕もこの間ITI(※3)のあとに電話しましたね。なんだっけなぁ……多分そのとき酔っぱらってて、なんか用事があったから電話したんですね、そしたらそのままITIの公演の話になって。「僕は今回こういうことを課題にしてやりました」っていうことを言ったら、「ああ、あそこはこうだったねぇああだったねぇ」みたいなことをお話ししましたね。そうそう、強い声をちゃんと出せるようになりたいっていう課題があって。役も怒ってるような役だったっていうのもあって。稽古場では割と良かったんだけど、本番に入っていざお客さんを目の前にしたら「ビビったな」ってことを言われて。どうしても無意識に目の前に人がいると、声ごと触れないように引き返しちゃうというか、そういう部分が、精神性としてあるみたいなんですよね。
榊:へぇー。
糸山:今回の公演でも「強い声」っていうのが課題なんですけど、ほんとに声を、ぶち当てる。音量的に大きな声の人は結構沢山いるんだけど、ちゃんと捉えているというか、ちゃんと相手に届いている声って本当に難しくて。ダイマンさん(倉田大輔さん)とかね、やっぱり凄いなと思いますよね。本当に声が届く人は、虚勢を張ってなくても、音量が小さくても、胸倉をつかむような感じがあって。そのあたり、僕は本当にチキンなんですよね。
――まっつんさん(松下)も入りたての頃は声が出なかったりしたんですか?
松下:僕はねぇ、声が出ないとかじゃなくて、芝居が下手だった。
糸山・榊:(笑)
松下:「小賢しい」ってよく言われて。小賢しいことばっかりやってたんだよね多分。
糸山:ただ僕、『幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい』の時に見城(※4)やったじゃないですか。その時に広田さんに、「松下は声張ってないけどちゃんと届くだろ」って言われて。
松下:そうかぁ……。多分僕はね、言われてきたことを素直にやり続けてきただけなんだよな。「目の前の人に言え。」って。そういうことを素直に受け入れてきて、徐々に徐々に、ね……。「これだ!」と思ってはゼロにして。その繰り返し。
榊:ゼロにするのって怖くないんですか? 自分が今まで積み重ねてきたものもあるじゃないですか。
松下:うーん……。ただ、「こうだな」とか思ってやっても「違う」ってダメだしされ、役は貰えず、周りには確かに上手いなぁと思う人が沢山いてさ。落ちこぼれだったからね。素直に聞くしかなかったよね。
※3
2013年12月、ITI(国際演劇協会日本センター)主催のリーディング公演にてカテブ・ヤシン作『包囲された屍体』の演出を広田が担当。劇団員では糸山・稲垣・小角が出演。
※4
2009年初演『モンキー・チョップ・ブルックナー!!』を書きかえて再演したのが『幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい』。初演で松下が務めた見城という役を再演では糸山が務めている。
「ちゃんと変っていってるのかなぁ」と怖くなることはありますよね。
榊:私、「(自分が)ちゃんと変わっていってるのかなぁ」と怖くなることはありますよね。アマヤドリのオーディションを受けに来る人たちを見て、私がこの人たちに比べて何か優れているとしたら、“一緒にやってきた経験の長さ”しかないんじゃないかなぁって思ったり。
松下:そういう悩み、くるよねー。
榊:あはは、先輩(笑)
松下:僕なんかそういうことずーっと思ってたもん。それで広田さんにもすげーメールして。
糸山:またメール(笑)
松下:「みんなの方がうまいじゃないですか!」って。「なんで僕が劇団員なんですか」って。そしたら最終的に、ほんっと怒られて(笑)「うるせぇ、お前が良いからいいんだー!」って。
榊:愛しかないじゃないですか(笑)
―――『ぬれぎぬ』、どんな作品にしたいですか?
糸山:アマヤドリって、劇団員ひとりひとりが考えてることとか興味を持ってることが結構ばらばらで。なんというか……“お芝居について語る言葉”が意外とおのおのちがうなぁ、と思うんですよね。だけどそれが、カンパニーとして良いことだと思うんですよ。みんなで同じことにしか興味がないっていうよりも。それぞれがそれぞれの興味が趣くままにいて、それでいて、ひとつのまとまりある作品を創る、みたいなことができたらなぁと思いますね。
松下:装置もない。音響もない。だから、美しい状態が訪れるんじゃないだろうかと。
榊:……え?
松下:いや、今回「悪と自由」とか言ってるけど、なんかね、ひとりの人が立ってて、美しい静けさが訪れるんじゃないかなと。そう思うよね。
糸山:でもまぁ音なし装置なし、劇団員だけ、一ヶ月だもんなぁ。
榊:うわ、やば!どうなるんだろう…。
糸山:普遍的な作品になるといいなあ。耐久性のある作品というか。一ヶ月もあるしね。
榊:どうやったら観る度によくなるんですかね。全部で29ステージあるから、簡単に腐っちゃいそうじゃないですか。新鮮さを保つのも難しいし。だから、見る度に良くなるにはどうやったらいいのかなぁ、って。……なんか、全ステージ観てもらいたいですね。見逃さないでほしい。
糸山:フリーパスもあるしね(笑)
榊:(笑)
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