アマヤドリ 稽古場ブログ

東京を拠点にするアマヤドリの劇団員・出演者によるブログです!


アマヤドリ本公演

『月の剥がれる』

作・演出 広田淳一

2016年9月23日(金)~10月3日(月)@吉祥寺シアター 

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―「人が人を殺したら、私も私を殺す」という脅迫を行おうと思っています。

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公演詳細はコチラ

アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介! 

月の剥がれる_出演者紹介_大塚由祈子
大塚 由祈子 千葉県出身 1989年生まれ
ICU高校ダンス部・お茶の水女子大学舞踊教育学専攻で、
ダンス漬けの学生時代を過ごしたのち、演劇の道へ。
ビビビ!という出会いを求めて、フットワーク軽く活動すべく現在フリー。
主な出演作は、はらぺこペンギン!「月がとってもきれいです」、
舞台芸術集団地下空港「赤い竜と土の旅人」など。

 ー『月の剥がれる』という作品についての大塚さんの考えをお聞かせください。

 プレ稽古初日に、広田さんがこの作品に込めた想いというのを語ってくださって、それを聞いてから初めて台本を読んだんですが……とてもタイムリーな作品だなと感じています。たとえば今、また戦争することになるんじゃないか、そういう時代になるんじゃないかって空気が流れてますよね。そういった問題について以前友人と飲みながら話してたとき、ある男の子が「実際戦争が起こったら俺は行くよ」「戦争を経験してみたい」と言ってたんです。それが私の中ではとても衝撃的で。戦争なんてみんな嫌だと思ってるはずって信じてたから、そうじゃない人も実際にいるんだということを目の当たりにして、ちょっとカルチャーショックで。そのとき、人それぞれ多様な価値観があるんだって強く実感したんですが、この『月の剥がれる』という作品に触れて、そのことを改めて思い出しました。

 もう二十代も後半になってくると、これから自分はどう生きていこうか、何が自分にとっての幸せなんだろうか、活き活きとした人生を送るにはどうすればいいんだろうか、とか色々考えるようになると思うんですよ。この作品に出てくる但馬という人物もこんな感じのことを口にするんですが……流れに身をまかせて、平坦で安定した生活をずーっと続けて長生きするというのも一つの幸福の形かもしれない、けれどそれで本当に自分は幸せなのかどうか。もしかしたら、人は「死」と向き合ったとき、活き活きと強烈に輝けるのかもしれない。それこそ、戦場で命を懸けるとか、何かのために命を落とすとか。「死」という運命に飛び込んでいくその鮮烈さっていうのは、のんびり80歳まで長生きしましたという人には絶対味わえないものだと思うから。

 私自身、役者という職業を選んでいるからには、どちらかといえば80年長生きしてゆったり過ごすというよりも、あえて厳しい苦難の世界に飛び込んで、何者かになるのを目指している、というところもあると思うんです。だからサンゲの人たちにも、私たち役者なら共感できる部分はあるのかな、なんて思ってます。それから、お芝居の素敵さっていうのは──色々なお芝居はあるにせよ──、人物の大きな決断の瞬間、鮮烈な生が見える瞬間をお客さまとシェアできるところなんじゃないかと私は考えていて。そういう意味ではまさに『月の剥がれる』の物語には鮮烈な瞬間、人生が凝縮されているので、きっと素敵なモノをお届けできると思います。

 でも……どんなことがあってもやっぱり死んじゃダメだよ、死んだら元も子もないじゃん、って思いますけどね(笑)。

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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介!  
西村 蒼 東京都出身 
現在東京大学4年。
大学に入りまだ勉強競争があることに絶望しているうち、小演劇の魅力に取り憑かれて今に至る。 
主な出演作は、Theatre MERCURY「毒、ふわりと。」
劇団ダブルデック「ゴールデン×ウィッグ」など。

─『月の剥がれる』という作品についての西村さんの考えをお聞かせください。

 まず劇中の「サンゲ」という団体のロジックがすごいなということ。もう一つは、未来の「先生」という立場の登場人物が出てくること。それが戯曲『月の剥がれる』の非常に興味深いところだと思っています。

 とくに「先生」の存在ですね。たとえば戦争のような、すさまじい出来事の前後を生きて、歴史の転換点をまさに目撃してしまうということは、実際起こりうることだと思うんです。われわれの国でも、先の第二次世界大戦を経て国家の体制がまったく変わってしまったことを目撃した人が、今八十代ぐらいの世代の方でいますよね。そのなかでも建築家の磯崎新さんなどは、自分たちの世代が歴史家としては最後の世代なのではないか、自分たちが目撃した以上の変化はもうこれ以上起らないのではないか、というような発言をしていたと記憶しています。そして、「先生」もそういう歴史の目撃者として位置づけられる人物なのではないか。

 サンゲという団体の起こした「大抗議」というすさまじいイベント──たぶん「先生」は、物語中その前後を経験している唯一の人物なのだと思う。最年長者として、時系列的に言っても、「先生」は過去のサンゲの物語のパートと未来の学校のパートにまたがっている唯一の人間であるように見える。おそらく彼女は、サンゲがリアルタイムで活動していたのも目撃し、「大抗議」以降に世相がまったく変わってしまったことも経験している。その上で、教師として若い世代に「怒りはよくないですよ」って教えていくことの内面には、なにかとんでもない屈託がありそうな気がするんですよ。そこに特殊性というか、あの人物の重要性があるんじゃないか。

 広田さんは、「怒ること」を人に教えなきゃならない、「怒ること」を実践するワークショップをやりたいくらいだ、ということを以前ツイッターでおっしゃってましたよね。僕の勝手な解釈ですが、広田さんの問題意識として、現状の日本では「怒り」が失われているんじゃないか、希薄になっているんじゃないかっていう認識があると思うんです。とりわけ戦後の日本において。だから『月の剥がれる』で、教師が「怒りはよくない」って教えている未来っていうのは、戦後日本の寓話なのかなって。そしてサンゲの「大抗議」は日本が経験した先の大戦に重ねられているのかなと。僕は単純にそういう作品なのかなって受け取りました。物語がわざわざ二つのパートに分かれている理由を考えてみても。

 戯曲全体では、どちらかといえばサンゲにたずさわったひとびとの物語がメインに置かれているんですが、物語の構造においては、サンゲが、何かの出来事が歴史化していく様相を描いているのだろうと思うんです。「先生」を蝶番に、やっぱり歴史の転換点を通過した前後の描写として考えると、面白い。リアルだと感じます。サンゲの大抗議を生まで目撃しているはずなのに、サンゲとは無関係ですよっていう顔をして批評するスタイルの人間がいたり、自分が生まれる前の出来事なんて知らねーしっていう態度の世代がいたり、とか。そういうことって絶対あるよなって思うので。

 サンゲの物語の部分に着目するだけでは、十分面白さを汲み尽くせない作品だと思っています。
 
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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介!  
鳴海 由莉 福島県出身
2012年より東京の小劇場界に進出。
フリーとしての活動を経て、2013年よりブルドッキングヘッドロックに参加。
現在も劇団員として活動中。
二つ名はシャニム。
近年の出演作は、MU『少年は銃を抱く』、
ぬいぐるみハンタープロデュース『すべての犬は天国へ行く』、
ブルドッキングヘッドロック『スケベの話~オトナのおもちゃ編~』。

─『月の剥がれる』という作品についての鳴海さんの考えをお聞かせください。 

 『月の剥がれる』がどういう作品なのか、たぶん、自分が初演をやっているときには分かってなかったと思います。今は少し時間が空いて客観視できるようになったというのもあるんですけど、当時の精神状態は、ちょっと普通じゃなくて、劇中のサンゲという団体についても、自分の役についても距離をおいて見ることができてませんでした。

 死ぬことによって世界を変えようとするっていう、極端な目的で結び付いているのがサンゲという団体なんですけど、当時、実はわたしはサンゲっていうコミュニティをうらやましいと思ってたかもしれないです。初演時のお客さんの感想で「広田さんはカルト・コミュニティを描こうとしたんだね」って言われて、たしかにそうかなって思いもしたんですけど、そもそも目的は何でもよくて、一緒に仲間としてやっている感じ、共有する時間の長さ、一緒にキャンプとかしちゃうような集団のあり方への憧れっていうのを、サンゲに対して強く感じていました。わたし自身は昔から集団行動っていうのがそんなに得意なたちではないんですが、そういうふうに、仲間内で同じ時間と目的を共有するみたいなことが、人生の幸福にとっては必要じゃないかなとも思っていて……。

 とくに、当時はわたしはまだ劇団にも入っていなかったので、アマヤドリ(ひょっとこ乱舞)という団体に対しての憧れがすごくあったんですよ。どうしてもアマヤドリに入りたくて入りたくて、毎回オーディション受けに行って、わたしはたまたま運良く何作品か出させてもらえたんですが、そのアマヤドリへの憧れを、サンゲっていう団体にも投影していたんだと思います。初演のときには。

 もっと言えば、サンゲの、命を掛けてヤバいことやってるという感じも、敬遠するんじゃなくて、当時は全然共感できるなって思ってましたね。命を捨ててもかまわないというほどのコミュニティの結束感に、自分も馴染みたいと思っていた。というか、当時はほんとにこの公演が終ったら死んでもいいくらいには思っていたかもしれないです。それくらい追いつめられていたのかもしれないですけど。

 それで、わたしのそういう感じを、広田さんも観察されてたかもしれない。わたしが演じた赤羽叶という役は、サンゲのメンバーのなかでも遅れてメンバーになる娘じゃないですか、その、しばらくメンバーにさせてもらえなくて、旗揚げメンバーのあいだではもう絆が出来上がっているところに新参者として参加するっていう感じ、旗揚げメンバーの信頼関係に入り込めなくてそれをうらやましいって思ってる感じが……もしかしたら、わたしに対する当て書きだったのかもしれない。わたしの役は役自体が途中で書き換わっているんですが、やっぱり、その前の役より赤羽叶の方がしっくり来ると感じてました。

 今回の再演は……完全にリベンジですね。自分が出た作品が再演するってなったときに、自分がかかわれないのは寂しいなって思うんです。それは『うれしい悲鳴』の再演のときにすごく思いました。個人的な思い入れになっちゃいますけど──この作品、『月の剥がれる』をもう一度やるというタイミングまで演劇をつづけていてよかったなって感じています。


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アマヤドリ本公演『月の剥がれる』出演者紹介! 

西川 康太郎 東京都出身 1980年生まれ
ゲキバカの前身劇団である劇団コーヒー牛乳旗揚げメンバー、以後全ての本公演に参加。
スニーカー好き、靴の置き場に困っている。
近年の外部出演作品は、 多次元プロジェクトTheFool『ひと夏のアクエリオン』、
バンタムクラスステージ『ルルドの森』
など。

─『月の剥がれる』という作品についての西川さんの考えをお聞かせください。 

 初演は二日目ぐらいに観てます。すげーけど面白くはないな、っていうのが第一印象でした。現時点で受け取っている台本(初演最終稿)とはまた違うバージョンだったと思うんですけど、物語の最初があって、真ん中があって、結末があるというお芝居ではなかったな、と記憶しています。人が悩んでいるところを順々に見せるというシーンの連続で、どこかちぐはぐで、一つの物語として受け取ることができなかった。

 でもあらためて台本を読んで、あれ、こんな分かりやすい話だったっけ?と驚いています。引き止めようとするんだけど置いて行かれる人たち、というストーリーラインがあって、それを未来から俯瞰している先生や生徒がいて、という構造は、すごく分かりやすい。初演を観たときには理解できなかった人物たちの行動の動機も、台本で読んだら、共感はできる。そんな劇的に変わってるはずはないのに、上演と台本のこの差は何だろう、っていうのは、今まさに稽古しながら考えている最中ですね。

 ただ、初演を観て自分が感じたとまどいには、やっぱりそれなりの根拠もあったと思います。『月の剥がれる』という作品は一言で言うと、問題提起しかしていない。普通は、お客さんが納得する着地点を物語として用意して、そのドラマの展開のなかで何か主張なりテーマなりを間接的に伝えるよう工夫すると思うのだけれど、『月の剥がれる』は、ドラマを展開しているというより、問題集に近い。登場人物を例題にした問題集。問いに対する答えの説得力ではなくて、問いの重要性そのもので勝負している作品になっている。だから、問題を解きに来たのではなくて答えを観に来たお客さんには、宙ぶらりん感を与えてしまいかねない。

 たとえば、『月の剥がれる』には怒りを捨て去った人たちというのが出てくるけれど、怒りを捨てる、っていうのがこの作品の「答え」ではない。『月の剥がれる』を観て「そうなんだ、怒りってとても良くないものなんだ!」って受け取る人は相当素朴な人だけですよね。普通のお客さんだったら「怒りを捨てるなんてちょっと変なんじゃないか?」と思うはずで、でもそれが結論じゃないんだとしたら、じゃあこの物語は何を伝えたかったの、ってとまどうことになる。でも広田さんが伝えたいことは、おそらく、これについて考えて欲しい、ということなんだと思う。怒りを捨ててしまって本当にいいのか。劇中先生が「正しい怒りなんてないんです」みたいなことを言うけど、本当にそうなのか。怒りって喜怒哀楽っていうコミュニケーションの一つじゃないのか。怒りってやっぱ必要じゃねーか? 怒りを全部否定したら、そもそも何も感じなくなってしまうんじゃないか、どんなニュースに対しても、どんな出来事に対しても無感動になってしまうんじゃないか?

 むしろ戯曲としては、怒りを捨ててはいけないっていうふうに言ってるようにも思えるんです。『月の剥がれる』は。もちろんそれも「結論」ではないだろうし、じゃあ正しく怒るって何なの、サンゲは正しかったの、っていうのはまた考えなければならないことなんですが。

 
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